大分地方裁判所 昭和47年(ワ)99号 判決
主文
原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者双方の求めた裁判
一 原告ら
「被告らは各自、原告松成スズヲに対し金一三三万七四四四円、同松成修一に対し金五三万五五八七円、その他の原告ら四名に対し各金四九万二〇五七円および右各金員に対する昭和四六年一二月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決
二 被告ら
主文と同旨の判決
第二当事者双方の主張
一 原告ら主張の請求原因
1 原告松成スズヲの夫であり、その他の原告らの父である松成政夫は次のような交通事故により死亡した。
(一) 日時
昭和四六年一二月二六日午後二時四五分ごろ
(二) 場所
大分郡湯布院町大字川上字野々草九州横断道路上
(三) 加害車両および加害者関係
加害車両 小型乗用自動車(北九州市55さ七八三七)
加害者関係 事故時右車両を運転していたのは訴外三好正広であるが、元来この自動車は、いわゆるレンタカーを営業とする被告会社が九州三菱自動車販売から購入して保有していたもので、当日被告会社はこの自動車を被告木下に六〇〇〇円で貸与し、事故時には被告木下がこれを自ら運転しないで同乗していた友人の前記訴外人に運転させていたものである。
(四) 事故の態様
被害者松成政夫は、前記道路上を訴外首藤健三の運転する自動車に追随して別府方面に向い慎重にタクシー車を運転していたところ、対面してきた三好正広運転の自動車が無謀にもカーブ付近でその前車を追い越そうとして、高速で中央線を越え、まず前記首藤の運転する自動車に接触し、ついで松成政夫の運転する自動車の右前部に激突した。そのため松成政夫は胸骨々折、頭がい底骨折の重傷を負い、事故当日の午後六時五分死亡した。
2 損害額
(一) 逸失利益
亡松成政夫は個人タクシー業を営んでおり、昭和四五年度における申告所得金額は四七万二九八一円であつた。同人は明治四一年二月一二日生の六二才であつたから、厚生省統計による平均余命は一四年であり、労働可能年数をその半分の七年として新ホフマン方式により計算すると。
472,981×58,743=2,778,432(円)
になる。
これを相続分にしたがつて分配すると、
松成スズヲ(妻)2,778,432×1/3=926,144(円)
その他の原告ら(子)〈省略〉になる。
(二) 慰藉料
亡松成政夫はきわめて健康で仕事に精を出しており、近親者にとりその存在は精神的支柱であり、特に妻である原告松成スズヲにとつては唯一無二の支柱であつた。そこで原告松成スズヲが蒙むつた精神、苦痛に対する慰藉料は金二〇〇万円、その他の原告らに対する慰藉料は各金七〇万円である。
(三) 葬儀費
亡松成政夫の葬儀費に金三一万三八三〇円を要し、これは原告松成修一が負担した。
(四) 弁護士費用
原告らは、本件訴訟の提起を弁護士竹中知之に委任したが、その報酬額は、右(一)(二)(三)の損害額を合計し、これから自賠責受給額五〇〇万円を差引いた三五九万一二五九円の約一割に相当する金三五万円(総計)が相当である。なおこの総計額は後記のように各人の蒙むつた損害額に按分して請求する。
(五) 損害額の填補および弁護士費用の按分
原告らは強制保険から金五〇〇万円を受給したので、これを各人の損害額に応じて按分し、さらに前記弁護士報酬を各人の請求額に按分すると次のとおりである。
〈省略〉
なお、原告松成修一は、被告木下から葬儀代として金一〇万円を受領したので、右請求額からさらに一〇万円を差引いた金五三万五五八七円を請求する。
二 被告らの答弁
被告会社が被告木下に貸与し訴外三好正広が運転していた原告主張の自動車が原告主張の日時、場所において、訴外亡松成政夫運転の自動車と衝突し、同訴外人が死亡したことは認めるが、本件事故につき訴外三好正広に運転上の過失があつたことおよび損害額は争う。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 被告会社が被告木下に貸与し、訴外三好正広が運転していた原告主張の自動車が、原告主張の日時、場所において、訴外亡松成政夫運転の自動車と衝突し、同訴外人が死亡したことは当事者間に争いがない。
〔証拠略〕によれば、被告会社は自動車の賃貸を業とする株式会社であるが、本件事故当日、たまたま同じ職場に勤めていた被告木下敏幸、訴外三好正広、同野口和広の三名が日曜ドライブをしようと企て、三名共同で被告会社に対して自動車の借用方を申入れたところ、被告会社はこれに応じ、右三名に対して本件車両を賃貸したので(ただし借主名義は被告木下のみ)、右三名はこれに同乗し、交代で運転しながら北九州市より別府を経て、熊本方面にドライブをしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば、被告会社および被告木下は、いずれも本件事故についていわゆる保有者責任を負うべきである。
二 そこで損害額について検討する。
1 逸失利益
〔証拠略〕によれば、訴外亡松成政夫は個人タクシー業を営み、昭和四五年中に四七万二九八一円の所得を得ていたことが認められ、これに反する証拠はない。そして同人の生活費は月二万円(年間二四万円)と考えられるので、これを控除すると、同人の一年間の得べかりし利益は二三万二九八一円であつたことが認められる。
また〔証拠略〕によれば、右訴外人は明治四一年二月一二日生(事故当時六二才九ケ月)であつたことが認められるので、同人は本件事故がなければ、あと五年間は右タクシー業を営むことができたものと考えられる。
よつて右訴外人の得べかりし利益を新ホフマン式により計算すると
232,981×436,437,041=1,016,815(円)
となる。
2 慰藉料
訴外亡松成政夫は、前記認定のように、本件事故当時個人タクシー業を営み、年令は六二才九ケ月に達していたものであり、またその方式および趣旨により公文書と認められるので〔証拠略〕によれば、原告松成スズヲは右訴外人の妻であり、事故当時六一才であつたこと、その他の原告らはいずれも事故当時成年に達し婚姻ずみであつたことが認められ、また本件事故の直接の加害者は訴外三好正広であること、その他諸搬の事情を考慮すると、原告松成スズヲに対する慰藉料は金一二〇万円、その他の原告らに対する慰藉料は各金五〇万円が相当である。
3 葬儀費
〔証拠略〕によれば、原告松成修一が亡松成政夫の葬儀費として金三一万三八三〇円を支出して負担したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そして原告松成修一が被告木下から葬儀代として金一〇万円を受領したことは、同原告の自認するところであるから右三一万三八三〇円からこれを控除した残りの金二一万三八三〇円が残存する損害額である。
4 右1ないし3に記載した原告らの蒙むつた各損害額を総計すると、四九三万六四五円になるところ、原告らは自動車損害賠償責任保険から金五〇〇万円の支給を受けたことを自認しており、したがつて原告らの蒙むつた損害は全て補填されたというべきである。
三 よつて原告らの本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。